今まで品質工学について何度か説明してきましたが、研修でも敢えて説明を省いてきた部分があります。SN比算出式や分散分析表辺りの話です。ここは私が説明し難い部分でもあり、品質工学を敬遠する要因になり易いため、省いてきました。日本規格協会の通信養育を受けた方は勉強したことがあると思いますが、他の品質工学入門書も何れもこの式の導出や分散分析の説明から話が始まっているのです。理系出身の方は、どうしても原理的な部分から順番に説明しがちですね。私もそうですのでわかります。 品質工学も、統計の概念を利用しておりますが、実践から入った方が良いと個人的に思うのです。その後に基礎に戻ればよいと考えます。 本日よりしばらく、通常の参考書にある基礎的な部分から説明し、その後また事例紹介をしていこうと考えています。
資料をご覧ください → 品質工学その1
p.1 私が通信教育で用いた「ベーシック品質工学へのとびら」(著者:田口玄一、横山巽子 発行所:日本規格協会)を参考に順次、説明していきます。この本では、品質基準等の話があるのですが、今回は省きます。既に「製造規格も品質損失で決める?」で説明していますので、そちらをご覧ください。今回は、動特性に用いるSN比導出の説明です。 横軸はシステムに入力するエネルギーで信号因子Mと呼びましたね。縦軸はアウトプットの特性値yです。直線でなくても構いませんが、今回は直線的な応答する事例です。
p.2 本とは順番を変えて具体的な数値で説明します。信号Mに対する出力yが表です。プロットすると右下のようになります。この直線の勾配βを算出する式は、分母が各信号の2乗の和、分子は信号と特性値の積の和で表されます。分母をrで表し「入力の大きさ」、分子はLで表し「線形式」と呼びます。下の例題で勾配を算出してみてください。 私は、なぜこの式で勾配が算出されるかずっと悩んでいました。本に記載の説明は後ほどします。
p.3~5 相関係数のブログ「いい加減に覚えると後が大変」の資料から抜粋して再掲します。最小二乗法により直線の勾配を算出した結果がp.5の赤枠内の式になります。分子がσxyでxとyの共分散、分母はσx2でxの分散になります。この式において、xバー=0、yバー=0、xiをMiに置き換えて代入するとp.2の勾配βの式が得られます。 ああそうか! 品質工学の場合、ゼロ点比例式を扱うことが多い(つまり横軸のエネルギーがゼロの時は出力もゼロ)ので、xバー=0、yバー=0なのでした。 ちょっと脱線しましたが、少し腑に落ちました。
p.6 またまた本の順番と逆です。求めた勾配β=1.1を用いて、βMiやyi-βMiを算出して平方和を求めます。そうすると右下図をご覧ください。yi2=(βMi)2+(yi-βMi)2が成り立っていることがわかります。2乗するとパワーの次元になりますが、全出力=信号のエネルギー+ノイズのエネルギーに相当する式になります。 品質工学では、ST(全乗和)=Sβ(信号変動)+Se(誤差変動)と表します。この関係式は、分散分析でも用いますので、覚えておいてください。 世の中事象は、2乗の和が多いのです。 加法性が成り立ちます。
p.7 最下位の式となるためには、アンダーライン部=0になる必要があります。この時、このアンダーライン部より勾配βは上述の式が導かれます。
p.8 いよいよSN比の算出式です。SN比ηは分母のノイズ、分子の信号ですね。SN比は大きい方が良いということは、信号が大きくてノイズが小さくなることです。 動特性の勾配βが大きい程信号は大きくなります。ばらつき(分散)がノイズになります。ηの式は複雑な形をしています。10logという対数は、dbに置き換える意味です。音楽や騒音で用いるdBとは異なります。 対数の中身が分かり難いですね。分子にあるVeを無視すれば、分子が信号で分母がノイズであることはイメージつきますね。なぜVeを差し引くかは後日説明します。本日は、この形を覚えておいてください。 この図は、過去ブログ「SN比のイメージ」で一度説明していましたが、少しマイナーチェンジしています。
p.9 p.2ページのデータを用いてSN比ηを算出してみます。 この際に、右にある分散分析表を作成すると理解し易いです。Sourceの列がSやVの列の添え字になります。fは自由度です。Vは左隣のSを自由度fで割った数値になります。 分散分析表を埋めて、SN比ηを計算すると10.4dbと算出できました。
p.10 一般式です。最初は、信号に対して出力が1つ(N=1)の場合のSN比の式です。次は、k個の信号について各々n個のデータがある場合のSN比の算出式です。nがあるかないかの違いになります。
今日はここまでです。