会社で品質工学のコディネータを始めてから15年になります。40年以上前に開発技術職で入社しましたが、その時にこの手法を知っていたらという反省から、コンサルを呼んで1回/月のペースで指導会と称して種々のテーマについて、品質工学の普及を推進してきました。「門前の小僧習わぬ経を覚える」という言葉通り、私自身が品質工学を勉強させていただきました。ところが、この品質工学、なかなか定着しないどころか後継者が現れてくれないのが悩みの種です。 以前、自部署でコンサルを呼んで指導会を開催する提案を毎年上げるのですが、その度毎に幹部を説得することに苦労しました。「費用対効果は?」という質問者に対して、「同じ技術要素であれば、開発時間が短縮されます」と言って幾つも事例を挙げるのですが、理解してくれないのです。当時、技術部門でない私が、技術部門のために提案しているにも関わらず、技術部門の責任者等は誰もフォローもしてくれないのです。トップが理解してくれていたお陰で、継続させてもらうことができました。技術の蓄積や育成の効果は必ずあると思うのですが、長期的なところまで頭が回らないのでしょうか? 歯痒いです。 私が一線を退いてからは、品質工学の普及はフェードアウトしていくのです。新人教育の中では、まだしつこく品質工学を教えてはいますが。 先日、他部署の技術部門の責任者が、品質工学を自部署で説明するための資料送付を依頼されてきましたので、いくつかの事例と次の資料を送付しました。資料のみで理解することは難しいですね。特に私の資料は、説明がないと理解できないかもしれません。案の定、「理解できないので、読み込んでみます。」という回答でした。次の資料は、新人研修の中で伝えたいことをピックアップしたものです。「品質工学アレルギー」というタイトルがよくなかったかな?
資料はこちら → 品質工学アレルギー
p.1 左の列が「従来法の陥りやすい懸念点、品質工学アレルギー」その右隣が「品質工学の留意点」をまとめています。
p.2 最初に「機能」を明確にすることが大事です。ここを間違えると、得られた結果を間違えてしまいます。ある意味、我々が求める「理想あるいはゴール」です。開発技術者は、案外、これを明文化できていないのです。この事例のように、強度を特性値に選ぶと間違った結果になってしまいます。
p.3 品質工学では「品質特性を測ってはいけない」と言います。成形というシステムの入力が金型寸法とした時に、出力は金型寸法に対応した加工寸法になります。品質部門の方は、外観を気にして、バリや反りを無くしてと注文付けますが、技術者はそちらを優先してはいけません。モーターというシステムに、電力という入力をインプットすると回転力が出力になります。モーターの騒音や振動は、電力の一部エネルギーが出力にならずに置き換わったもので、入力が100%出力されれば、発生しないのです。したがって、我々の理想は入力が100%出力されることを目指すのです。
p.4 出力の測定結果が右下のように得られた際、近似式を立てると思います。研究では良いですが、品質工学では、ゼロ点を通る直線を引きます。入力エネルギーがゼロならば出力もゼロですからね。
p.5 コンサルの先生に教えていただいた図を参考にアレンジしています。従来の2段階設計では、目標値(緑線)を目指して各パラメータの水準を選んでいきます。温度、圧力、時間及び湿度の設定条件は、「A1, B2, C1, D3」となります。下の図は、選んだ条件で製造した特性値のばらつき具合を示しています。平均値は、目標値に一致していますが、特性値の合否判定基準からはみ出すものがある場合、ばらつきを狭める必要が生じます。
p.6 左図は、横軸の入力に対して出力が非直線の場合、右図は直線性がある場合です。左図では、同じxの振れ幅に対して、yA1>yA2となります。yA2の方がばらつきが小さいのです。一方、直線性がある場合は、どの場所でもばらつきは同じになります。
p.7 品質工学での2段階設計では、非直線のばらつきが小さい水準を選定していきます。直線性のある圧力を除いて、ばらつきが小さい水準を選ぶと「A3, C3, D1」になります。この場合、下図のようにばらつきが小さいものの、目標値から外れた分布になってしまいます。そこで、特性値を下げる圧力の水準3を選ぶことにより目標値にチューニングするのです。
p.8 従来の製造条件と品質工学の製造条件は全く異なる水準になっていますが、品質工学のご利益が、このページに書かれています。 同じ特性値の振り幅にするための各パラメータの振り幅が緑色の幅になります。品質工学(上)の方が従来法(下)より、緑の幅が広いことが明らかです。よって製造条件の管理幅を広くすることが可能になります。
本日は、ここまでにします。続きは明日、説明します。