今日は一段と専門的になります。私が長年疑問に思っていたことがやっと理解できたため、忘れないようにブログに記録しておきます。
興味のある方は、お読みください。 → pH緩衝液
p.2 酸やアルカリのpHを測るpH電極あるいはpHセンサーという測定器があります。このpH電極は使用前に必ず校正(あるいは較正、キャリブレーションともいう)を実施します。最低2つの異なる数値のpHの標準液(緩衝溶液、バッファー液とも言います)で検量線を装置内で作成します。目には見えませんが、自動的に装置内で実施しています。標準液にpH電極を浸漬した時に発生する電位差を装置が計測した値がグラフの縦軸です。pHの異なる2つの標準液中の電位差を各々測定すれば検量線が書けます。 pHが1変化すると約59mV(25℃)ぐらい電位が変化します。
p.3 標準液の種類です。
p.4 標準液のpHは温度で変化しますので、測定液の温度を一定にするか、温度センサーを内蔵して温度補償するpH電極を用います。
p.5 5種類ある標準液は緩衝溶液です。緩衝溶液は、バッファーとも呼ばれ、その溶液に酸あるいはアルカリを添加していっても、しばらくはpHが一定値を示します。
p.6 ①酸HAは水に溶かすと水素イオンH+と陰イオンA-になります。このことを「酸が解離する」と言います。塩酸HClの場合は、水素イオンH+と塩化物イオンCl-に解離します。②酸解離定数Kaは、分母が塩酸の濃度、分子が水素イオン濃度と塩化物イオン濃度の積です。定数ですから一定値です。③この2番目の式の両辺の対数にしてマイナスを掛けたものが3番目の式。④ーlogKa=pKa、-log[H+]=pHと置き換えたものが4番目の式。⑤移項したものが5番目の式です。 右のグラフを見てください。縦軸は濃度です。原点に近いpHでは酸HAだけの濃度ですが、pHの数値が大きくなっていくとHAは青線のように減少して、その分[H+]あるいは[A-]がピンク線のように増加してきます。この青線とピンク線が交わるところは[HA]と[A-]が等しい濃度の時です。 この時、式⑤よりpH=pKaとなります。 緩衝溶液のpHは、酸解離定数pKaと[HA]と[A-]の比で自由に決められる。ということを覚えておいてください。
p.7 pKaが2.8、5.5あるいは8.2の場合、酸を加えると左側に、アルカリを加えると右側にシフトします。何れの場合も青の矢印の範囲内では比較的pHの変化が小さいですね。この部分が緩衝作用がある領域になります。
p.8 緩衝能β(pHを1変化させるために多量の酸・塩基が必要な時、βは大きい)は左下の式で算出され、グラフ内の緑色の曲線で表される。[HA]と[A-]が等しい時に一番緩衝能βが大きいことがわかります。 左図を回転させた右図において、HAとA-の曲線の接線の傾きは各々dpH/d[HA]とdpH/d[A-]で、これらが小さいほど緩衝能βが大きい。それは[HA]と[A-]が等しい時です。
p.9 中性付近のpHになるリン酸塩緩衝液を調製します。同じ濃度0.025[mol/L]のNaH2PO4とNa2HPO4を混合してできる緩衝液のpHはリン酸の酸解離定数pKa7.20になるはずです。今回ナトリウム塩を使用していますが、カリウム塩でも同様です。重要なのは、H2PO4ーとNa2HPO42-の濃度です
p.10 計算上は、P.9のようにリン酸塩緩衝液のpHは7.20になるはずですが、市販されているリン酸塩緩衝液はpH6.86なのです。 どうしてこんなに差があるのか、長らく悩んでいました。
p.11 ここで漸く、昨日の活量係数が登場するのです。 いろいろなイオンが存在するために活量係数によりpKaを補正する必要があります。
p.12 「Debye–Hückel の式」を用いてpKaを補正しました。
p.13 イオン強度による補正によりpHは7.20ではなく、6.86になります。
p.14 ちなみにリン酸は解離定数が3つあります。
本日のブログは少し専門的になって申し訳ありませんでした。 長年、リン酸塩緩衝液のpHを計算すると7.20になるはずなのに、市販されているリン酸塩緩衝液はpH6.86。なぜかをあまり深く考えず、そのままにしていました。新人研修で説明する必要性から、いろいろ調べたのですが、なかなか見当たらなく、40年以上も前の大学時代の参考書を引っ張り出して読んでやっときっかけが得られました。大学時代は、分析化学は苦手な分野でしたので、理解せずに避けていた部分でした。やっとスッキリしました。時(経験?)が解決してくれました。