実技演習を研修として何年か実施してきて、まだ悶々としている部分が残っています。プラスチック製のキャップをコネクタに嵌合する条件を設定するという演習があります。キャップとコネクタはテーパになっていて、エアーシリンダーによってキャップを押し込みます。キャップは後で外すので、適当な嵌合強度で嵌め合う条件を探すのが課題です。 これを理論的に説明したいという願望があるのですが、材料力学を専門的に学んだ経験がないのがネックになっていました。「くさび」の力学的な釣り合いで説明できるのではないかと、Web検索してきたのですが、なかなかヒットしませんでした。やっと見つけた一例があったのですが、式しか載っておらず、納得できるものでなかったのです。先日、図書館から借りてきた「工業力学」(著者:青木弘、木谷晋 発行所:森北出版)に「くさび」の解説を見つけました。やったーと思いました。これで霧が晴れると。以下資料にこの説明を参考にまとめてみました。
資料はこちら → くさび
p.1 打ち込みと引き抜きの場合の力の釣り合いを左図に描きました。私が悩んでいたのは、抗力Nの力の向きです。打ち込みの時はくさびから打たれる側へ、引き抜く場合は、引き抜かれる側からくさびにベクトルが向くのかな?などとモヤモヤしていました。打ち抜きも引き抜きも同様にくさび方向に向くということが本の説明に書かれていました。これが明らかになれば、あとは、中ほどの図のように力のベクトルで釣り合いを考えて式にするだけです。引き抜きの場合はsinαの前が-なので、打ち込み時より力は低目になるようです。 今まではなかなかヒットしなかったのですが、動画で説明していました。
打ち込みの動画はこちら → https://www.youtube.com/watch?v=3Zolq7fo7j4
引き抜きの動画はこちら→ https://www.youtube.com/watch?v=bg4XXRIh4tU
p.2 緑のキャップを黄色のコネクタにFの力で押し込んで嵌合する場合の式を、くさびを参考に書いてみました。エアーシリンダーで押し込んでいって止まったところで、くさびの力の釣り合いと同じ式になります。摩擦係数は静摩擦係数です。
p.3 キャップを引っ張り始めて動き出す際に、キャップを引っ張る力をFとして力の釣り合いの式を立てました。くさびを引き抜く際の式と同様です。
p.4 上記の理論式が現象として生じているのかをデータで確認してみたいと思います。研修生が実験したデータをプロットしてみました。横軸がエアーシリンダーの推力です。p.2のF=2N(μcosθ+sinθ)です。 縦軸は、キャップを外す引っ張り試験で得られた嵌合強度で、p.3のF=2N(μcosθ-sinθ)です。黒い直線は押し込みの推力と嵌合強度が等しい場合です。実際のデータが〇印で、低い方では黒い直線より低目、推力が増加すると黒い直線に近づく赤線のような傾向を示しています。理論式からすると赤い線は常に黒い線より下側にある考えられますが、合っていないのはなぜでしょうか? 推論の域をでておりませんば、左図のような状況になっているのではないかと思われます。キャップとコネクタのテーパは同じとします。 コネクタを右の方から左方向に押し込んでいきます。②が丁度テーパ同士が合致した時です。プラスチックですので、まだ押し込んでいけます。③よりさらに押し込んだのが④です。②~④を右図のグラフに書き入れました。 ②の場合は、理論式通りになり、③及び④はキャップにコネクタが食い込んでいる分、抗力Nが増しているのではないかと思います。よって、嵌合強度がやや増す方向にシフトするのではないか考えます。
実験結果を検証できたわけではありませんが、今考えられる仮説としては理屈に合っているような気がしています。 皆さんも、なぜこんな現象が起きるのかと思ったら、先ずは原理原則に則り理論的に考えてみてください。上手く説明が可能な場合、問題が起きた際に役立つ知見となると思います。