星の王子さまと「物売り」とのやりとりを以下に記します。
物売りは、 のどの渇きをいやすのに、とてもよく効く薬を売っていた。一週間にひと粒 飲めば、もうなにも飲みたいとは思わなくなる。「どうしてそんなものを売ってるの?」 王子さまは聞いた。「すばらしく時間が節約できるようになるからだ」物売りが答えた。「専門家が計算したところ、一週間に五十三分の節約ができる」「それでその五十三分をどうするの?」「好きなことに使うのさ……」〈ぼくなら〉と王子さまは思った。〈もし五十三分あったら、そっと、ゆっくり泉にむかって歩いていくよ……〉
現代人は、約60%の人がタイパを意識し、約64%の人が時間に追われているという調査結果があります。タイムパフォーマンスを追求する現代は、「のどの乾きをいやす薬」のような便利な道具やサービスがたくさんあります。今流行りのAIは、五十三分の節約を生み出してくれるかもしれません。では、その五十三分あれば、皆さんは何をしますか? 現代社会では、テクノロジーや効率化によって多くの時間を節約しています。しかし、「節約した時間で何をするか」という肝心の目的があいまいで、ただ忙しさを加速させるために時間を使っていることが少なくありません。目的もなしに、物売りが言うところの好きなこと(例えば、スマホを眺めるなど)をして五十三分を無駄に過ごしてしまうかもしれません。王子さまの「ゆっくり泉へ歩いていく」という言葉は、「無駄と思える時間に中にこそ、人間らしく生きるための本当の価値がある」という強いメッセージを含んでいます。歩いていくプロセスには「心地よい風を感じる」「水が見えてきて嬉しくなる」など五感で味わうこと自体が生きる喜びであることを意味しています。「星の王子さま」の物語全体を通じて、サン=テグジュペリは「時間をかけること」の大切さを説いています。