以前にG R&Rを取り上げました。これは検査の適格性を検証する手法で、検査装置あるいは検査者の精度を評価する方法でした。今回取り上げる「分析バリデーション」は、医薬品の分析法を検証する手法です。日本薬局方の参考情報に語句の定義が掲載されていますのでご覧ください。→https://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/1248-1.pdf
統計的な要素が多く含まれており、理解し難いので、事例で説明いたします。項目が多いので、何回かに分けて説明します。
資料はこちら → 分析バリデーションその1
p.1 溶液中に溶解している物質濃度を分析する分析法をAからBに変更する際に行う分析バリデーションの事例です。分析法としては、液体クロマトグラフィーなどがあります。今回の検証項目、実施方法、評価方法及び評価水準を表にまとめておきます。 この表を見ただけで、敬遠してしまう方もおられると思います。私もかつてそうでした。 次ページ以降、項目ごとに説明していきます。検証項目等は、事例毎に異なる場合があります。
p.2 先ずは「直線性」です。吸光度を用いて、溶液濃度を測定したい場合は、予め濃度既知の溶液の吸光度を何点か計測して検量線を算出します。この検量線の直線部分にて、未知の吸光度を計測して濃度を求めることになります(左図)。液体クロマトグラフィーの検量線を作成する場合、異なる5つの濃度の溶液を調製して、クロマトグラフィーのピーク面積比をプロットします。「直線性」の評価水準は、「相関係数が0.99以上、y切片が100%溶液のレスポンス値の4%以下」としています。
p.3 5種類の濃度の成分Aが溶解した溶液の液体クロマトグラフィーの面積比をプロットすると右下のようになります。検量線の近似式より、相関係数r=1.00、y切片は0.0197となり、いずれも評価水準(相関係数r=0.99以上、100%溶液の4%=0.0327以下)を満たすことが確認され、判定は「適合」となります。
p.4 2項目目は、「真度」です。測定値の偏りの程度のことで、真値と測定値の平均値との差です。今回、他のB及びC成分のみが溶解しているプラセボ原液に成分A、B及びCが100%溶解している100%調製液を添加して表示量80%、100%及び120%液の添加回収液を調製します。調製の仕方を表の下に記載します。添加回収液の成分A濃度を測定して、各々の濃度での回収率を求め「97~103%」に含まれ、「真度の信頼区間」にゼロが含まれることを評価水準として評価します。真度ゼロとは、添加回収が100%であることを意味します。
p.5 3種類の表示量の溶液で各々3回ずつ添加回収率を計測した結果です。これら9つの回収率の平均と100%との差を標本から求めた真度dとします。9つの回収率は、評価水準の「97~103%」に含まれることが確認でき、適合です。
p.6 真度の信頼区間を算出します。計算に必要な数値は、9つの回収率より求めた標本の真度d、標本のサンプルサイズ、標本の分散そしてt分布における両側95%信頼度の境界値です。左上の表を用いて、一元配置分散分析を実施すると3つの表示量間の分散値が計算できます。信頼区間の境界値は、t分布表から算出しますが、Excel関数「=T.INV.2T(0.025,8)」でも算出できます。自由度は8=9-1です。 以上の数値をいれると母集団の真度δの信頼区間は- 0.4526≤δ≤0.2526となり真度ゼロが含まれることが確認できました。p.5と6の結果より、「真度」は適合です。
本日は、ここまでです。 本日、使用したExcelファイルは→ 分析バリデーションその1