「癒しのユーモア」（著者：柏木哲夫 発行所：三輪書店）を紹介します。著者は、大学の精神科の教授であり、ホスピスを開設しておられます。川柳を用いたケアに力を注いでおられます。川柳は、本書を読んでもらうとして、著者の川柳仲間の患者さんの詩が紹介されていて、素晴らしいので、以下に記します。患者さんは胃がんを患っています。著者は最後の一行にすばらしさが凝縮していると考えています。また、上智大のデーケン先生の「ユーモアは愛の現実的表現である」を引用され、ユーモアのセンスを身につけたいと言っておられます。どんな苦しい時も、ユーモアを持つ余裕が欲しいものです。
お腹に手を当ててガン君に語りかけてみた。「どうしてそんなに頑張って大きくなろうとするんだ。寄生主のボクの生命を奪ってしまえば結局君も死んで元も子もなくなることはわかっているんだろう。もう少し考え直したらどうか ほどほどに大きくなるとか いっそ小さくなって長く生きのびるとか」 でもガン君は沈黙したままだ。 仕方がないので「君が黙っているならしょうがない ボクはこの方面ではプロのドクターに教えられ、君に正面攻撃ではなく、からめ手から攻めるから。 注意しておくように」と捨てぜりふを言った。 沈黙のまま ボクは「君が大きくなってボクの細胞も生きていけなくなったとき、ともに死のう。そのときボクは救い主によって救われ、神様のところへ行って永遠の命を与えられるから 君に ありがとうを言わなければならない。 君はどこへ行くんだい 君も天国に来たいなら 生きているうちに 自分の無力を知って 神に身体をあずけたらいいんだよ」とそっと言った。 お腹に当てている手がちょっとふるえたように思えた。