化学も酒の肴になります。 今日は、以前から疑問に思っていたことがわかったので、まとめておきます。既にご存知の方もおられるかもしれません。不明なことがわかって、改めて昔の先達の知恵は素晴らしいと思いました。
資料はこちら → 化学トピックス
p.1 お汁粉やぜんざいに一つまみ塩を入れる理由 をご存知ですか? 今まで入れると良いことは知っていましたが、なぜかまで科学的に説明はできませんでした。食塩のナトリウムイオンと塩素イオンが舌の味蕾(みらい)細胞に活を入れることにより甘さを感じるようです。
p.2 梅干は酸っぱいのにアルカリ食品と言われています。酸っぱいのは酸性では?と思いませんか? 今まではそれ以上深く突っ込んで調べたことがなかったのですが、調べてみてわかりました。 先ず、食物を焼いて灰にします。その灰が酸性かアルカリ性かを調べて判断するようです。梅干を灰にすると、酸っぱい原因のクエン酸は燃えて二酸化炭素と水蒸気になって蒸散してしまいます。ナトリウムやカリウムはそのまま灰の中に残ります。ナトリウムやカリウムはアルカリ金属と言われていますので、水に溶かすと水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液になり、確かにアルカリ性です。 肉を焼くと、タンパク質や脂肪は二酸化炭素と水蒸気で蒸散し、多く含まれているリンやイオウが残ります。イオウは酸化すると硫酸イオン、リンはリン酸イオンになるので、灰を水に溶解すると確かに酸性になります。 食品は体内で燃やす(酸化)のと同じことが起きると考えられていますので、食品そのものの酸性・アルカリ性ではなく、酸化された後の酸性・アルカリ性で分類しています。人間の体は中性が好ましいですので、肉100gの酸を中和するには梅干であれば5g必要です。野菜類はアルカリ性が高いので、肉は野菜と一緒に食べましょう。 バランスの良い食事を表を見ながら考えてみてください。
p.3 「梅酒を作るのに、上白糖やグラニュー糖でなく、氷砂糖を使う理由は?」ご存知ですか? 水は通過し、それ以外の物質は透過しない「半透膜」があります。半透膜の片側に物質が溶けており、反対側は真水だったとします。 物質の濃度を薄める方向に水が流れます。左上の図を見てください。梅の中には梅のエキスが濃く詰まっています。氷砂糖はまだあまり溶けだしてきていませんので、梅の内部の物質濃度の方が周囲より高いため、水やアルコール分子が梅の内部に入っていきます。水やアルコールが入り、梅内部の濃度が低下すると、今度は梅の外側に梅のエキス、水などが流れ出します(真中の図)。その状態が右側の図です。上白糖やグラニュー糖の場合は下の左図をみてください。氷砂糖に比較して、上白糖やグラニュー糖は溶けやすいので、梅の外側の濃度が、梅内部の濃度よりも高くなってしまい、梅の中の水が外に流れ出してしまうのです。そうすると、梅はしわしわのしなびた梅になって、エキスも外に出ず美味しい梅酒にならないのです。 この濃度を薄める方向に水が流れる事象は次のページでも出て来ます。以前のブログ「森羅万象 平均的なものからのズレをなくす方向に動く」で話したように、全ての物は平均に向かって進んでいくのです。
p.4 「呼び塩」という言葉ご存知ですか? 「青菜に塩」と言う言葉は? 青菜に塩を振りかけると、青菜内の水が流れ出し、しおれますが、その状態が似ているので「元気がない」ことを表します。 この現象もp.3と同じですね。 青菜に塩を振りかけた後に、重石を載せておくと漬物になります。漬かり過ぎた場合に、真水に入れると濃いのを薄めようと水が大量に青菜に入ります。その結果、その中の細胞を水が塞いでしまい塩が外に出てこれなくなってしまいます。 少し塩を入れた水にすると、水が徐々に入っていき、内側の塩も外に出てくるそうなのです。 脱線しますが、あまりに塩漬けが強い魚はネコも跨いで行ってしまうので、「ネコマタギ」と言うそうです。
p.5 「山菜のあくを抜く(とる)」と言います。この「あく」とは何でしょうか? シュウ酸、ホモゲンチジン酸、タンニンあるいはポリフェノールだそうです。これらの酸は、重曹や灰で中和します。灰のことも「あく」と呼ぶことがあるますので、「あくであくをとる」のです。「悪に対しては悪」「毒は毒をもって制す」なのでしょうか? ホウレン草はゆでてあくをゆでこぼしますね。 ゴボウやフキは黒くならないように、熱や酢で酵素を不活性化して「あく」をとります。
食に関する疑問点が少しすっきりしました。本当に、昔の先達は経験に基づいた素晴らしい知恵を持っていたのですね。