「サル化する世界」(著者:内田 樹 発行所:文藝春秋)を紹介します。タイトルが面白そうなので、図書館から借りて来て明日返却日なので、急いで読み終えました。最初は取っ付き難い印象でしたが、読んでいくうちに共感する部分が多い読物でした。最初まえがきを読んだ時は、感じなかったのですが、もう一度読み返してみると、腑に落ちました。 古代中国の呂蒙(りょもう)という武勇にすぐれた武人が同僚から「以前の呉下の阿蒙(おバカさん)にあらず」と言われたことを受けて「士分かれて三日ならば、即ち更に刮目して相待すべし」と答えたことを引用しています。士は三日経てば別人になっているから、目を大きく見開いてその人を見よ。という意味だそうです。人間の成長が速いことを言っています。 著者は、現代社会は「自分らしく」あり続けることが必須になり、逆に窮屈になってきているのではないかと言っています。「自分らしさ」を慌てて確定する必要がないと言っています。
本を読んでもらえれば著者の主張はわかると思いますが、私が共感したり気になった部分をいくつか紹介します。世界中のリーダーが「今さえよければ、自分さえよければ、それでよい」というポピュリズムを打ち出していて大衆も迎合しています。このことを「サル化」と表しています。このサルとは「朝三暮四」のサルだそうです。朝夕に4粒のトチの実を給餌していたところコストカットを迫られて、サルたちに「朝3粒、夕に4粒ではどうか」と提案するとサルが激怒します。「では、朝4粒、夕に3粒はどうか」と提案したところ、サルたちは大喜びしたそうです。現代社会のデータ改竄、統計ごまかし、粉飾決算は全てこのサルと似ていると言っています。現代の政治家の発言を見ていても正にこの通り。同感、同感。
研修では、「論理的に考えて」を何度もいってきましたが、この本を読んで少々反省したことがあります。論理性を鍛えるには、「論理は跳躍する」ことを教える必要があるそうです。「知性」とは知識や情報ではなく、疾走感・グルーブ感・楽しい・跳躍感のような力動感だと言っています。つまり、知識や情報を組み合わせたりすることによって、跳躍して新しい発見が得られるそのプロセスのことを知性と定義するのだと思います。本ブログもそのようなところを目指したいものです。 この跳躍するためには「勇気」が必要ですが、現代社会は「恐怖心をもつこと」「怯えること」「上の顔色を窺うこと」に熟達した人が出世する仕組みになっていると著者は言っています。 教育自体が、「勇気を持たせること」を教えずに、リスクを気にする人を育てようとしています。私もそう思います。 キャンプでは、刃物は危ないから使用させない。火起こしは危ないから、カセットコンロを使う。「○○は危ないからさせない」「統一テスト結果の偏差値より高い大学を狙わない、狙わさせない」「リスクがあるから安全装置を幾重にも設ける」「ダブルチェックでは足りないので、トリプル以上チェックする」「海外留学しない」などなど。リスク回避は大事ですが、過剰過ぎると委縮した人ばかりが大人になり、負のスパイラルになっていきそうです。そうして、誰も責任をとらない発展性が乏しい社会になっていってしまいます。以前にも紹介しましたが、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学の卒業式のスピーチを聞いてください。「12:47/14:52」辺りからです。「Most important, have the courage to follow your heart and intuition」(最も重要なのは、あなたの心と直観に従う勇気を持つことである。)
スティーブ・ジョブズのスピーチ → https://www.youtube.com/watch?v=VyzqHFdzBKg
著者は長らく大学で教鞭をとっておられた方ですが、新入生のオリエンテーション時の質問で「単位をもらえる最低点は?」「この授業は何回まで休めますか?」という単位取得の最低点や最低出席回数を確認する学生が必ずいるそうです。「ミニマム」が知りたい訳です。彼、彼女らにとって単位、学位、免状は「商品」で学習努力はそのための「貨幣」であると説明しています。出席をとらない科目、毎年同じ試験問題の科目、丸写しレポートで単位をくれる科目は「特売商品」ということで、「どうすれば最も少なく学べるか」コストパフォーマンスを気にして努力する学生がいるそうです。何のために勉強しているかの目的が間違っているとしか思えないですね。「何をしなくてもTOIECスコアが100点上がる」という類の本があれば直ぐ買うという喩えで説明していました。
最後に共感したことは「やりたいことをやりなさい」ですね。以前読んだ大前研一さんの本も同じ言葉をタイトルにしていました。 やりたいことをやっている時が一番パフォーマンスが高いそうです。 私もそうしようと思います。サル化しないようにも。