久しぶりに品質工学の事例を説明します。以前「どのデータを使えばいいの?」でシール強度の評価法を取り上げましたが、データの取り扱い方について説明します。 今回は、包装袋や容器のシール部あるいはテープの接着などの評価への品質工学の適用です。どのシールあるいは接着についても共通しています。
資料はこちら → シール、ピール強度
p.1 目的機能(抽象的表現でも構わない)を「後工程や市場での使用環境温度で、シールあるいはピール部の剥離・ピンホールが発生しないこと」、基本機能(定量化できる表現)を「シール部が一様のシールorピール強度を有すること」とします。左上図をご覧ください、左から右に向かってシールを剥離してシールあるいはピール強度を引張試験機などで測定します。横軸を引張試験機のストローク、縦軸をピール強度としてプロットします。理想のシールあるいはピール強度に近い右上図とばらつきがある右下図がイメージ図です。実際は、ストロークではなく時間が横軸となります。色の違いは、3種類温度を変えて測定した結果です。
p.2 予備実験をします。 左図のように両端に未シール部があるサンプルを作製して引張試験機で剥離強度が計測可能かどうかをテストしてください。チャートを描くことが可能な場合は、次ページ以降の検討を進めてください。剥離せず破断してしまう場合は、右図のように幅広の引張試験機のチャックの幅の試験片を作製してピール強度もしくは破断強度を測定ください。 どの位置で破断しているかなど外観で点数化して評価します。
p.3 データは、直交表を90°回転させた表に入れていきます。左端の制御因子及び水準の欄には、適当な項目を入れてありますので、適当な制御因子や水準値を選定して、置き換えてください。L12直交表なので水準は1と2の2つです。赤枠には、引張試験機のデータが入ります。引張試験機のストロークもしくは引張時間に対するシールあるいはピール強度が時系列のデータになります。
p.4 L12の行毎にグラフが12個描かれます。シールを引き剝がし開始及び終了時は計測上のばらつきがあるため赤枠部分のデータをカットします。なお、解析するデータの開始時間あるいはストローク及びデータ数は、L1~L12とも合わせてください。
p.5 SN比は右上の式を用いています。理想からの差分の分散が小さいものがSN比が大きくなる式です。左図が原理図です。全変動STは偏りと誤差変動の和になります。全て2乗にすると加法性が成り立つのです。下の図をご覧ください。y1が5、y2が4、y3が3というデータで計算してみます。STは各データの平方和で50です。Smは3つのデータの平均値ybar4と目標値(今回はゼロとします)の差つまり4の二乗を3つ分足し合わせ48になります。Seは平均値ybarと各データの差分の平方和で2となります。一番上の式に数値を入れると成り立っていますね。 この場合、自由度fは表の通りです。STの自由度はデータの個数です。Smの自由度は平均値は1つしかないので1となります。Seの自由度はSTの自由度からSmの自由度を引いた2となります。Smは16が一種類、Seは0と1の2種類ですので、自由度は種類の数とみても良さそうです。
p.6 L1の列だけご覧ください。赤枠のデータ全てを用いてST~SN比まで求めます。L2~L12までも、同様にSN比を求めます。
以上のように、シール部一様にばらつきがないことを評価するには、ピンポイントのデータではなく、可能な限り全てのデータを用いて計算するようにしましょう。これが今日のポイントです。 昨日のはやぶさ2の話ではありませんが、「無駄なデータはない」のです。