ISOの滅菌に関する規格に「フラクションネガティブ法」というD値を求める方法が示されています。D値とは、菌数が10分の1になる時間です。 フラクションネガティブ法の理論式が記載されているのですが、式の導出がわからないと私としては気持ちが悪いのです。先日ようやく、自分なりに解釈できたので、スッキリしました。 忘れないうちにメモしておきます。
資料はこちら → HSK法
p.1 フラクションネガティブ法は、湿熱滅菌だけでなくEO滅菌の条件設定としてISO規格にも掲載されている方法で、ハーフサイクル法よりも根拠づけも容易ですし、滅菌時間を短縮可能なので有用な方法であると考えます。通常、BI(バイオロジカルインジケータ)のD値は生残曲線法という方法により、滅菌時間を変えてサンプリングして菌数をカウントして、滅菌時間vs菌数の片対数グラフの勾配より算出しますが、本法は菌の有無を確認するため、作業も容易になると思われます。 ISOには、3種類のフラクションネガティブ法の式が掲載されています。 表に特徴をまとめておきます。 HSK法とLHSK法は、ほぼ同じ考え方ですが、試料数や時間間隔が同一のLHSK法の方が計算し易いと思います。 HSK及びLSK法は、5つの暴露条件が必要ですが、SMC法はサバイバル/キルウィンドウ内の1ポイントです。その代わり、試料が50以上で3回の結果を用いる必要があります。 扱い易い方法を採用して、D値を算出してください。
p.2 HSK法の前提条件をまとめています。
p.3~6 式の導出の説明資料です。 深く知りたい方はお読みください。ISO記載の式に合わせてあります。 χとγという係数を設定しています。滅菌時間を短冊状に分割して、その1辺が時間χ、もう1辺が死滅確率γという意味合いで、その掛算つまり短冊の面積Uが滅菌処理時間となります。このUの総和が無菌までに要する平均時間UHSKです。滅菌理論で示されるFT=DT(logA-logB)と同じ式になります。加熱処理時間FTをUHSK、温度TにおけるD値DTをDバー、AをN0、-logBを0.2507に置き換えたものです。 この式の導出は次ページ以降に説明します。 統計においてサンプリングした標本から母集団の平均値を推定します。標本のD値の平均値をDバーとして、標本の分散Vを用いると母集団のDは95%の信頼区間で(Dバー)±2SDの間に入ります。標準偏差SDはVの平方根です。 中ほどのaはUHSKの分散を求めています。試料の死滅確率p=r/nとおくと、この確率の分散はp(1-p)/n-1という公式より、r(n-r)/n2(n-1)となります。aは短冊毎にこの確率を算出して短冊の時間を掛けた面積の総和です。2で割っているのは平均時間を算出しています。
p.4 Dバーの分母にある0.2507はオイラー定数と呼ばれる値です。この意味について、いろいろ調べましたが、検索できませんでしたので、私の理解するところを説明いたします。右図をご覧ください。無菌までの平均時間UHSKは、D(logN0-logN)で表されます。 N0は最初の菌数です。NはUn時間滅菌後の菌数です。縦軸は菌数の片対数です。 菌は直線的に減少します。最初に106個いた菌が減少していき、縦軸の0を下回ると死滅となります。0は、100=1個なのでまだ死滅していません。フラクションネガティブ法の場合は、ある時間間隔毎の離散的な(短冊状)データです。 したがって、連続的な直線と短冊データとは、斜線部分の差が生じます。この斜線部の総和を誤差γとして、菌数に加算します。この部分、余分に滅菌時間を延ばします。なぜγ=0.2507になるかは次ページで説明します。
p.5 γはオイラー係数と呼ばれていて、1+1/2+1/3+‥‥+1/nの数列の和からlognを引いたものです。 昨日説明したので、詳細は「いつかは理解できる」をご覧ください、ただし、昨日はγ=0.5772(自然対数の場合)としていましたが、今回の一連の式では自然対数ではなく底を10とする常用対数を用いていますので、0.2507に変換して記載してある点にご注意ください。
p.6 フラクションを途中からサンプリングする場合の説明図です。最初の菌数がn個、滅菌後r個になる場合短冊の差し引きを計算するとlogn-logrとなります。 黄色の網掛と類似していませんか?
p.7 HSK法の実行例です。実際の値を用いて、D値を計算してみましょう。最初の菌数をN0=105個としています。上の表より、下表の係数をサンプリング毎に算出しています。
p.8 p.3の式に代入して計算していきます。D値の95%の信頼区間は5.73~7.35分と算出できました。
p.9 LHSK法は、上述のHSKでサンプリング数と時間間隔を一定に制限したものです。
p.10 HSK法と考え方は同じですが、式は簡略化されています。
p.11 LHSK法の実行例です。
3つ目に記載のSPMC法に関しては明日説明します。この方法にも統計の考え方が関係してきます。 統計を勉強してきたおかげで、式の意味合いが理解できるようになってきました。 皆さんも、いろいろ経験するとよいことがありますよ。