難しいテーマが続き申し訳ありません。本日はさらに理解し難い「GR&R」の話です。日本の厚生労働省に相当するFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品衛生局)査察時に、試験法のバリデーションを説明する機会が多くなってきました。 その際に使用する手法が「GR&R」ですが、なかなか良い参考書がなく、ようやく手に入れた「MSAスタディーガイド(日本語版)」(発行所:Plexus japan)を苦労して読みました。以下にその内容を説明いたします。
資料 → GRR
p.2 GRRは、GR&Rとも言って「Gage Repeatability and Reproducibility」の頭文字をとったものです。 日本語に訳すと「測定装置の繰返し性と再現性」となります。最初は米国自動車業界の品質システムの規格として策定されました。
p.3 GRR基準は3段階で評価されます。誤差10%未満、10~30%、30%超で、30%以上の試験法・検査方法は受け入れられません。
p.4 統計や誤差の話題では、必ず、平方和は加算性があります。という話が出てきます。ある工程で製造された(製品評価の計測値のばらつきの二乗)=(真の工程変動値のばらつきの二乗)+(計測値のばらつきの二乗)です。 工程の安定性を表す工程能力指数Cp=規格の許容範囲÷6σであることは以前のプログで説明しました。上述のばらつきσを先程の平方和の足し算の式に入れると、一番下にある工程能力指数の二乗の逆数の和に変形できます。
p.5 Cp=2のイメージです(復習)。平均値を中心に±6σ、幅では12σとなります。
p.6 p.3のGRR基準を図にしてみました。本にはこの絵はありません。私のオリジナルで、イメージし易いように描いてみました。「GRRの数値は、(観測される)工程の変動を100%とした時の測定ばらつきを%表示したもの」です。 Cpactual=2の工程があったとします。GRR10%、GRR30%及びGRR60%の絵の中の破線がp.5の破線と同じです。GRR10%、GRR30%及びGRR690%の測定系を用いて破線の両端のサンプルについて計測した分布が緑の曲線です。GRRのばらつきが大きくなると緑の分布も拡がっていきます。つまり、破線の分布の広がりを1(100%)とした時GRR10%の広がりは0.1となり、CpGRR=1/0.1=10となります。 実際の工程変動は計測できずに、計測誤差が含まれた状態で観測されます。 観測された計測値の分布が青色のようになります。Cpobsはp.4の下の式を変形した右上の式で計算されます。このCpobsが観測される工程能力指数です。GRR10%、GRR30%及びGRR60%について、この式よりCpobsを算出すると、1.96、1.71及び1.28と算出できます。
p.7 実際の工程はCp=2と高い安定性があるにもかかわらず、測定系のばらつきが大きいとあたかもその工程が安定していないように評価してしまいます。
p.8 測定系のばらつきはGRRは、測定の繰返し性と反復性のばらつきを用いて下の式で表されます。繰り返し性はEV(装置変動)、反復性はAV(測定者変動)で記号化します。EVは同じ測定器で複数回計測した際のばらつき、AVは測定者を変えて測定した際のばらつきです。
p.9 GRRのばらつきと真の値からの偏差のばらつきを加算すると計測器全体の計測誤差となります。
p.10 概念は理解できたと思いますので、ここからは実際のデータの取り扱い方法を説明します。 測定者3名が部品1~10まで各々3回ずつ測定した結果表とそのグラフです。
p.11 昨日の分散分析でも出てきましたが、全て平方和で表されます。(全変動TVの平方)=(装置変動EVの平方)+(測定者変動AVの平方)+(部品変動PV)、(繰り返し性・反復性GRRの平方)=(EVの平方)+(AVの平方)の2つの式となります。
p.12 手順は3種類あります。分散分析が比較的簡単であると私は思います。あるいはMinitabのような統計ソフトも使い勝手は良いです。
p.13~19 「平均値ー範囲法」について説明します。
p.14 装置変動EVを算出する式が左上です。EV=R(ダブルバー)×K1という式の意味はまだ理解できていません。R(バー)は各々の測定者の部品1~10までの計測値のMAX-MINの幅の平均で、R(ダブルバー)は、そのまた平均値です。K1は係数で試行回数により値が異なります。今回は3回測定なので、0.5908となります。
p.15 測定者変動AVの算出です。Xa(バー)、Xb(バー)及びXc(バー)は測定者A、B及びCの計測値の平均値、Xdiff(バー)は前述の3つの平均値のMAX-MINです。K2は3回実施した場合の係数です。左上の式に代入してAVを算出します。
p.16 部品の変動PVは、10個の平均値のMAX-MINをRpとサンプル数10の係数K3を掛けて算出します。
p.17 公式に上述で算出した値を代入してGRRとTVを求めます。
p.18 算出結果の一覧表と棒グラフに大小関係を描いています。全変動TVに対するGRRの比率を算出すると26.68%が得られました。つまり、全ての変動に対する測定系の変動26.68%であることを意味します。
p.19 GRRの判定表より30%以下なので、ばらつきはありますが、場合によっては許容されるレベルであると判定されます。
p.20 知覚区分数の算出法です。使い途は不明です。
p.21~22 Excelのフォーマットを添付しておきますので、この説明を熟読していただき数値を入れて使用してみてください。セルの中に計算式を入れてありますので、使用する際に誤って計算式の上にコピーしないように原本はバックアップをしてからご使用ください。計算結果は検証してくださいね。
Excelファイルはこちら → G R&R
「GRR収集データ」シートと「GRR報告書」に現在数値が入っていますので、消して使用ください。
p.24~27 分散分析を利用する方法です。こちらの方が使いやすいと思います。
p.25 昨日の分散分析で説明した「繰り返しがある二元配置分散分析」をExcelの分析ツールで計算した結果です。分散分析の結果は最下欄に記載したように、定性的な事しかわかりません。では、どうするか? 次ページ以降参照ください。
p.26 下の表にある式に分散分析で得られた数値を代入した、EV、AV、GRR、PV及びTVを算出します。全変動を100%とした際のGRRは27.9%と算出できました。
p.27 「平均法ー範囲法」と「分散分析法」で求めたそれぞれの数値を表にまとめました。数値の違いは多少ありますが、オーダー的には同等と言えると思います。
p.28 ゲージ性能曲線(GPC)について説明します。
p.29 例題です。上方限界値UCL:1.0Nm、下限限界値LCL:0.6Nmのとき、計測値が0.5Nm、0.7Nm及び0.9Nmが得られました。各々の数値が合格する確率を算出しなさい。その数値での偏りbは0.05Nm、σGRR=0.05Nmあるとしています。右下の式で確率が計算できます。
p.30 Excelの計算結果とGPC曲線のグラフです。Paをプロットしています。UCLとLCLの規格値を示しています。
p.31~33 Minitabという統計ソフトを用いると、分散分析とGRR両方の結果が得られます。私がExcelで描いたグラフまで自動で描いてくれます。ある程度原理を理解した上で使用すると、これらのソフトは使い勝手は非常に良いと思いますが、先日、間違った使い方をしているのを見つけました。原理をしらない方は、その結果が正しいかどうか判断できないので危険です。十分気をつけてください。