昨日ペンローズの描いた図形の話をしたのは、ちょうどノーベル物理学賞を受賞してタイムリーだったこともありますが、現在図書館から借りてきて読んでいる「第二の不可能を追え! 理論物理学者、ありえない物質求めてカムチャッカへ!」(著者:ポール・スタインハート 発行所:みすず書房)を紹介するための前振りでした。昨日、返却予定日だったため前日から読み始めたのですが、面白くなってきたので途中で返さず貸出延長にしました。借りた当初は、題名が面白そうでしたが、結晶の話が最初の方に出てきて読むのを諦めていました。ところが読み始めると、結構面白いのです。カムチャッカに行く前段について、資料にまとめてみました。
資料はこちら → 準結晶
p.1 左図は昨日のペンローズ・タイルです(再掲)。太った菱形とやせた菱形を用いれば、隙間無しに敷き詰められるというものでした。上述の著者は、教え子とその理論的ところを突き詰めようとして試行錯誤しています。行き詰まっていた時に、アマンというアマチュアの数学家が右下にように菱形の線を入れて、別のパーツの線(アマン・バーと呼びます)とマッチングさせると、隙間なく敷き詰められることを発見します。例えば、真ん中のようになります。これを続けていくとペンローズ・タイルとなります。 これをヒントに著者等は、アマン・バーの一部に重なる平行線を引いてみます。赤線がそれです。幅が広い(W)部分と狭い(N)部分が規則性なく並んでいるように見えますが、フィボナッチ数列のように並んでいることに気が付きます。このように気が付くところが素晴らしいですね。
p.2 上述は平面ですが、3次元でも同じことが起き得るだろうということで、菱形を立体にした模型を並べて検討していました。そんな折、強度が高い合金を検討していたイスラエル人のシェヒトマン博士が、従前の結晶では禁じられいた5回対称のX線パターンを得るのです。論文を投稿しても、当時の結晶学ではあり得ない構造だという批判を受けて却下されてしまいます。後にノーベル化学賞を受賞することになります。 X線のパターンに五角形が現れます。五角形の一片と対角線の比が黄金比なのです。フィボナッチ数列の比も黄金比に近づいていきます。 上述の著者スタインハート博士の予想は当たっていた訳です。
p.3 その後、東北大の蔡 安邦教授が安定な準結晶を合成します。教授のわかりやすい動画を見つけましたので、ご覧ください。
動画はこちら → https://www.youtube.com/watch?v=T8LAeQ7YEdE&t=1298s
東北大で研究された安定性がある準結晶です。
p.4 大阪大では、炭素化合物のグラフェンを用いて準結晶を作製したようです。真中の写真はロシアで見つかった隕石です。五角形の面が見えています。準結晶であるかどうかは不明です。右側は、スタインハート博士とその仲間がカムチャッカ半島に、準結晶を探索に行った際の成果物です。隕石と思われる準結晶のようです。 通常の結晶はゆっくり冷却することで生成しますが、準結晶は急冷すると生成するようです。隕石に準結晶がある場合、どのような過程で生成したかを探ることにより宇宙の誕生がわかってくる可能性があります。
著者のポール・スタインハートの講演です → https://www.youtube.com/watch?v=srBjBiEGP7U
今回、この本を読んでみて、ありえないと思われていることにも注意深くみていくと新たな知見が得られることがわかりました。また、その熱い探求心があれば、多くの人の共感を得て大きなエネルギーになっていくことを実感しました。