有機化学の反応機構に入っていきます。
資料をご覧ください → 有機電子論その2
p.1 反応の速さに影響を与える置換基の話です。左上の図で、Xが塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンで、Cが炭素です。最外殻の電子が足りないハロゲンの方が炭素より電子を吸引する効果(I効果)が高くなります。この反対に電子を供与する効果が高い置換基にはメチル基などがあります。ハロゲンが電子を吸引すると電子の存在確率が炭素よりもハロゲンの方に偏ることになります。炭素の数が多くなり距離が長くなると、I効果は遮断されて減衰します。右表にカルボン酸の酸解離定数kPaを示しています。ハロゲンがカルボキシル基(COOH)に近い程、Hが外れ易い(pkaが小さい)ことがわかっています。
p.2 塩化ビニル(CH2=CHCl)の2重結合にはπ電子雲があります。塩素の非共有結合の電子と二重結合のπ電子雲が一緒になり非局在化(平均化)されます。電子の存在確率は4/3ずつになります。最初2つの炭素の電荷をゼロとすると電子が1/3ずつ増えることにより-に荷電します。かたや塩素は電子の2/3を炭素に渡すので、+に荷電します。π電子との関係により生じるこの効果のことをM効果と呼びます。ハロゲンのI効果とM効果は正反対の向きに働きます。ハロゲンXをCl、Br及びIにした3種類の化合物における双極モーメントを表にしています。双極子モーメントは、(電荷の大きさ)×(原子間距離)で定義されるので、電荷の偏りが大きい程双極子モーメントの値が大きくなります。炭素間の結合が一重、二重、三重になるほど非局在化が進み、双極子モーメントは低くなることがわかります。
p.3 アルコールと塩酸の反応を触媒(ZnCl2)で実施する場合、メチル基(CH3)の数が多いほど反応速度が速くなるようです。OH基は脱離して炭素がプラス電荷を持つ中間体ができます。メチル基は電子を与える性質のため、数が多いほどプラスを中和し、中間体を安定化させて、求核試薬の塩素イオンが攻撃し易くなるようです。
化学反応が起きる場合は、置換基の電気陰性度やその位置が大きく影響することがわかったと思います。化合物を設計する方は、この辺の知見を経験的に持っておられるのだろうと思います。